バラのまちだより No.13

バラのまちだより No.13表紙

光源氏とバラ

<階(はし)の底(もと)のの薔薇(さうび)、けしきばかり咲きて、春秋の花盛りよりもしめやかにをかしきほどなるに、うちとけ遊びたまふ。 【(庭へと下りる)階段のもとの薔薇がほんのわずかばかり咲いて、春秋の花盛りよりもしっとりと落ち着いて風情があり、人々はうちとけて(管弦の)遊びを楽しまれる。】

これは『源氏物語』の中の「賢木」の巻にある、光源氏の義兄・三位中将が光源氏を招いた宴席の描写の一部です。このあと、三位中将は光源氏に次の和歌を詠みかけます。

それもがとけさひらけたる初花におとらぬ君がにほひをぞ見る 【それがあればなあと願っていて、今朝開いた初花(階の底の薔薇)におとらない君の美しさをみることだ】

光源氏もはしゃいだ様子で応じ、楽しそうな宴席の様子が描かれています。このとき、光源氏や三位中将は政治的に不遇な状況にありましたが、そのような中でも光源氏はバラのように優雅で美しいのでした。

平安時代の「薔薇(さうび)」は、コウジンバラ(庚申バラ)の類と考えられています。コウジンバラの学名はロサ・キネンシスといい、中国原産で、春から秋にかけて深紅色や淡紅色の花が咲きます。日本には遣隋使や遣唐使の手によってもたらされ、舶来の花として珍重されました。

原文の引用

参考文献

バラのまちコーナーから本のご紹介

『薔薇 ~秋から冬へ~』 大貫 亘/著 日本写真企画

バラをテーマにした写真集。

露に濡れたバラ、秋空の下や夕闇の中のバラなど、目の覚めるような美しい写真が収められています。なかでも霜や雪の中にあっても鮮やかな色を見せるバラの写真は圧巻です。

『ウッドローズ』 ムリドゥラー・ガルグ/著 肥塚 美和子/訳 現代企画室

ウッドローズとはヒルガオ科の植物で、花が終わるとガクが木のように固くなります。硬くなったガクはバラの花の形になり、その中に大きな種ができます。一見木製のバラの彫刻のようなウッドローズの実ですが、少し触れただけで砕けてしまいます。

この小説の主人公の1人、スミターにとってウッドローズは幸せな子供時代の象徴でした。インドで生まれ、ある事件のために復讐心にとらわれたスミターは、力をつけるため渡ったアメリカでも傷ついてしまいます。多くの苦悩を経験し、年齢を重ねたスミターは言います。「心はウッドローズと同じ。いつも若々しくて、常春。でも壊れる寸前。」

苦悩の半生を送ってきたのはスミターだけではありません。彼女がアメリカで出会ったマリアンや貧しい家庭で育ったナルマダー、強硬なフェミニストのアシーマー、夫の死を嘆き続ける母を見て育ったヴィピン。そのほかの登場人物たちも悩み、苦しみ、やがて自分の場所を見つけます。

明るい読後感の小説です。

舌で楽しむバラ

バラの実

野生のバラやオールドローズは赤や橙色の果実を実らせます。果実の形は球状・棒状などがあり、表面も光沢のあるもの・トゲのあるものなどさまざまです。この実をローズヒップといい、古くから薬用、食用として利用されていました。

ローズヒップを使ったお茶、ローズヒップティーはきれいな赤色と酸味が特徴で、トロリとした舌触りです。ビタミンCが豊富で、体調を整えたり、美容に効果があるといわれています。

ただし、飲みすぎるとお腹を壊すことがありますのでご注意を!

バラの花びら

ガリカやダマスク、チャイナローズといった香りの強いオールドローズの花びらは、乾燥させるとお茶として楽しむことができます。甘く優雅な香りとくせのない味のローズティーは、過敏になった神経を優しくしずめ、明るく前向きな気持ちを取り戻させてくれます。

バラの花には若返りや美しさを保つ効果があるとされ、かのクレオパトラはバラの花で満たしたお風呂に入っていた、といわれています。

主要参考文献