バラのまちだより No.10

バラのまちだより No.10表紙

自然を愛したモダンデザインの父 ~ウィリアム・モリス~

イギリスの詩人、小説家、工芸家、社会活動家とさまざまな顔を持つウィリアム・モリス(1834-1896)。伝統工芸を復活させるアーツ・アンド・クラフツ運動の主導者として、デザインの世界に多大なる影響を与えました。なかでも植物をモチーフとした繊細で美しいデザインの数々は、現代もカーテンや食器などに広く用いられ、人々の生活を彩っています。

薔薇はモリスが最も愛した花の一つでした。最初の壁紙作品「格子垣(トレリス)」は、彼が新婚時代を過ごした「レッド・ハウス」の庭を飾った薔薇の生垣をヒントに生まれました。自然のまま素朴に咲かせることを大切にしたモリスは、薔薇の品種改良を嫌い「全体の形でも細部でも、道端の茂みにある薔薇より美しい薔薇はない。」と腹を立てていたそうです。品種改良で生まれたイングリッシュ・ローズのひとつが「ウィリアム・モリス」(淡いアプリコットピンクの可愛らしい花です)と名付けられたことは、もしかしたら不本意なのかもしれませんね。

参考

バラにまつわるこんな本はいかがですか?

金井美恵子の短編より

幻想的な文体に「薔薇」の文字がよく似合う金井美恵子の世界から、「薔薇」をタイトルにした3篇をどうぞ。

詩人の遺品から発見された原稿、その著者に会ったという見知らぬ男の語り、詩人が書いた小説のような形式の書評、その書評を使って私が書いた小説、薔薇細工で飾られた薔薇色のジョーゼットのシェードのスタンドがある家で物語の推敲を重ねる2人の男…。『薔薇色の本』という文章、「書く」という行為が薔薇の花びらのように幾重にも重なり合う。

戦後の歓楽街、薔薇色の人絹のカーテンがかかったダンスホール。つむじ風のようにあらわれた若い男は、「薔薇のタンゴ」を巧みに踊り、ヤクザを殴り倒し、その黒豹のような身のこなしで周囲を魅了する。ヴァイオリン弾きの少年は彼に憧れるが。

薔薇色に透きとおる耳をもつ美しい高嶺の花の女性。取り巻きの一人は彼女を薔薇の花にたとえる。時間と空間を超え様々な名前で呼ばれても薔薇は永遠に薔薇であり続ける、と。彼女の誕生パーティへ向かった主人公は、古い記憶をたどり歩くうち、不思議な空間へ迷い込む。

  • 「薔薇色の本」
  • 「薔薇のタンゴ」
  • 「もう一つの薔薇」

『金井美恵子全短篇 Ⅱ』 日本文芸社 1992 所収

おひめさまのたいくつは、どうしたらなおるかな?

ひとりむすめのおひめさまが朝から晩まであくびばかりしているので、王さまはしんぱい。

とおい国からごちそうをとりよせたり、バラのはなびらを散らしたベッドをよういしたり、医者やまじない師を呼んできても、あくびは治りません。

そんなある日、おひめさまが庭をさんぽしていると、めしつかいのおとこの子が、どきどきしながら近付いてきて…。

バラやその他の花々がさりげなく画面を飾るきれいな絵本。

古今東西、絵の中のバラ

女性の美、純潔、宇宙の完全さ、生命の誕生など、古代から人々は薔薇の美しさにさまざまな意味を結びつけていた。

ダ・ヴィンチからウィリアム・モリスまで、宗教画からシュールレアリズムまで、ルネサンスから近現代まで、王家の紋章から仏教美術まで、時代やジャンルの境界線を取りはずし、ありとあらゆる芸術作品に登場する薔薇をはじめとする植物に着目し、イコノロジー(図像解釈学)の観点から眺める美術論。

新旧いいとこどり ~イングリッシュ・ローズ~

「イングリッシュ・ローズ」と呼ばれるバラの仲間たちがあります。

イギリスの育種家デビッド・オースチン氏が、オールド・ローズとモダン・ローズをかけあわせて作出したバラたちです。フランスのギヨーやデルバールなどと並ぶバラのブランドの1つであり、公式に承認された分類系統名ではありません。系統としてはモダンローズの中のシュラブに含まれます。

オースチン氏が「イングリッシュ・ローズ」と名付けたのは1969年。その後つぎつぎに新品種が生み出され、現在200種ほどが世界中で咲いています。イギリス人は世界でとりわけバラ好きな国民なのに、「スコティッシュローズ」や「ガリカローズ」があって「イングリッシュ」が無いなんて…というのが命名の理由だそうです。

オールド・ローズのエレガントな花の形や芳香と、モダン・ローズの四季咲き性や豊富な色のバリエーションをあわせ持つ、よくばりなイングリッシュ・ローズ。樹形や丈夫さが園芸に適しているのも、人気の理由のひとつです。

参考

中央区はバラのまち…バラのまちだより、10号を迎えました

与野公園のバラまつりが開催される5月と、秋バラが咲く10月に、毎年発行している「バラのまちだより」おかげさまで10号を迎えました。これからも、中央区の花・バラと、本との素敵なつながりをご紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。