バラのまちだより No.16
バラ色はいつから?
人生バラ色」「バラ色に輝く未来」など、「バラ色」をたとえに使った表現を耳にすることがあります。「バラ色」という言葉を辞書で調べてみると、「幸福・喜び・希望などに満ちた状態」(『広辞苑第6版』)、「しあわせや希望に満ちている状態。輝かしい未来などを象徴する色」(『大辞林第3版』)などの記述があり、明るさや幸福感を表現する言葉として使われていることがわかります。
では、「バラ色」という言葉はいつ頃から使われるようになったのでしょう。「バラ色」は西洋バラにちなむ色名で、日本古来の伝統色名ではありません。明治時代にヨーロッパから多くのバラが輸入されるようになり、洋風の赤を表す色名として使われるようになりました。
日本の文学でも、明治時代の作品から「薔薇色」という言葉が見られるようになりました。
「私は卒業式の日に県知事の前で答辞を読み、母校の庭に卒業記念樹を植えて、未来を薔薇色に見ていた。」
これは明治・大正時代の文豪、森鷗外が1912年(明治45年・大正元年)に発表した短編『羽鳥千尋』の中の、鷗外に宛てられた手紙の一文です。手紙を書いた「私」が未来に向かって胸をときめかせていた様子が伝わってきます。この頃には現在と同じように、希望を感じさせる表現に使われていたことがわかります。
参考文献
香りも届けられたらいいですね
バラは花の美しさもさることながら、その芳醇な香りも大きな魅力です。ここではバラの香りについて楽しめる本をご紹介しましょう。
『薔薇のパルファム』 蓬田 勝之/著 求龍堂
古代に始まるバラの歴史とバラを愛した人物、そして香りの魅力について紹介する本、と思いながら読み進めていくと、少しずつ化学の話になり、医学に発展していく‥‥。
バラの香りの分析や心と体に作用する成分、新種の開発、宇宙へ飛んだバラの研究など、時代やジャンルを超えて広く深く掘り下げられていきます。
香りの研究者として、長年バラと関わってきた著者の博識ぶりに、研究への熱い思いが伝わってきます。そして「まだまだベールにつつまれた芳香種」の研究をさらに進めていきたいという熱意に、バラの香りの奥深さを感じます。少々難しく感じられる文章もありますが、この一冊で「バラ博士」に一歩近づくことができるかもしれません。
『マリー・アントワネットの調香師 ジャン・ルイ・ファージョンの秘められた生涯』エリザベット・ド・フェドー/著 田村 愛/訳 原書房
18世紀のバリで、バラやいろいろな花から多くの香水を調香し、フランス王室や貴族を相手に、香水商として成功したジャン・ルイ・ファージョン。調香技術を磨く努力を惜しまず、熱心に取り組みますが、フランス革命の嵐に飲み込まれ、裁判にかけられることに・・・。
一人の調香師の生涯とともに、王妃マリー・アントワネットや貴族の女性たちが好んだ香り、ファッションなど、当時の文化についても興味深い記述が多く、フランス革命を違う視点から眺めることのできる一冊です。
『新編 香りの花百譜 熊井明子コレクションⅠ』熊井 明子/著 千早書房
長年ポプリの研究につとめた著者が、香る花にまつわる話をまとめた作品です。その中でもバラは「特別な存在」として、自身の故郷の思い出、シェイクスピアやチャップリンといったバラを愛する人々の話など、バラへの想いがあふれるように語られています。
「花に助けられて悲しみを超え、花に励まされて仕事に勤み、花に誘われて楽しい時を持つ…」という言葉に、花に対する愛情の深さを感じます。
「さいたまクリテリウムbyツールドフランス」にちなんで バラの村、ジェルブロア
10月26日(土曜)、さいたま新都心にて「さいたまクリテリウムbyツールドフランス」が開催されます。自転車レースの世界最高峰、「ツールドフランス」は、今年度で開催100回を数える歴史ある大会です。そして、その名前を冠した大会が、フランス以外の国で行われるのは今回が初めてのことで、世界からも注目されています。
そこで記念すべき大会にちなみ、フランスにある美しいバラの村、ジェルブロアをご紹介します。
ジェルブロアはパリの北西部ピカルディー地方にある、人口わずか100人ほどの小さな村です。1901年、モーリシャス島出身のフランス人画家、アンリ・ル・シダネルが移り住み、中世からの宗教戦争で破壊されていた村の中の一軒家を自宅として買い取り、修復して庭をバラ園にしました。その後、シダネルの家や庭に倣って、村はバラの花で埋めつくされ、現在ではフランスで「最も美しい村」の1つに認定されています。
毎年6月にはバラ祭りが盛大におこなわれ、世界中から多くの旅行者が訪れています。
フランス片田舎の小さな村が、バラという衣装をまとって華やかに輝く姿を見てみたいものですね。