バラのまちだより No.35
薔薇で始まり、薔薇に終わる物語
「鞄の中にクリムゾンスカイが一輪ありますね。水を吸わせてあげましょう」
「クリムゾンスカイ」
「そのローズの名前です。真紅の空。この季節の薔薇はとても騒がしい」
男性の目線の先に私の鞄があった。言われるままに鞄に手を入れ、薔薇をくるんでいたハンカチを取る。
――『透明な夜の香り』p.22より――
「華やかな色に似合わず香りが弱い」という薔薇・クリムゾンスカイ。花を見ることなく名前を言い当てたこの男性は、人の感情まで嗅ぎわけ、どんな香りも再現できる天才調香師。
しばらく引きこもっていた一香は、彼のもとで家事手伝い兼事務員として働き始め、ともに風変わりな依頼と向き合い、言葉を交わすうちに少しずつ心を開いていきます。
しかし彼は、一香が無意識に避けている香りがあることに気づいて…。
実はこの小説、冒頭にも末尾にも薔薇が登場します。薔薇に引き合わされるかのように出会った二人の行く末と最後の一文を、ぜひ確かめてみてください。
参考資料
バラの花の飾り寿司で華のある食卓へ
毎日の食事のなかで、寿司料理は特別感があります。季節や行事などで創作したり、お祝いごとにアレンジしてみたり、にぎり寿司、巻き寿司などの寿司をイベント用に工夫してみてはいかがでしょうか。
《バラの花の飾り巻き寿司》
たらこ、酢めし、焼き海苔の準備と下ごしらえをまず済ませておきます。
次に花を作ります。薄焼き卵を用意し、ピンクの酢めし、紅しょうが、たらこを等間隔に散らし、ラップで丸く形をととのえておきます。海苔に白い酢めしをのせ、野沢菜をひき、花のラップをはがして、巻きすをつかって巻いていきます。
《花のにぎり寿司》
基本のにぎり寿司で白い寿司めしをにぎります。鯛のにぎり寿司の上にサーモンでバラの花びらを巻きのせます。チャービル(ハーブ)を飾ります。
《バラリボン》
お祝いの席で胸につけるリボンを作ります。ピンクの寿司めしと紅しょうが、かに風味かまぼこで赤い具材を用意し、かまぼこ、薄焼き卵を準備します。つくったパーツごとに組み立てます。海苔で巻いたり、文字を作ってのせます。
《カナッペ寿司》
寿司めしの側面におぼろ昆布をまぶします。アボカドペーストをぬり、青じそとマグロで作った赤バラをのせ、中心に白ごまを加えます。青じそといかで作った白バラをのせ、中心に黒ごまを添えます。
参考資料
- 『定番おすしと飾り寿司-簡単!楽しい!-』 佐々木薫/監修 世界文化社 2006年
- 『川澄健のいちばんおいしい!飾り巻きずし&飾りちらしの作り方-「川澄飾り巻きずし検定」教科書』 川澄健/著 主婦の友社 2015年
- 『飾り寿司-春夏秋冬を楽しむわが家の自慢寿司-』 ゆうエージェンシー/編 成美堂出版 1998年
生きた、愛した、悩んだ~文豪ゲーテの恋多き生涯~
ドイツの文豪ゲーテの詩「野ばら」は、「童は見たり、野なかの薔薇」という近藤朔風の訳詞で知られるシューベルトとヴェルナーの曲で有名ですが、他にも多くの音楽家が作曲するなど、世界中で愛されている歌です。
生涯を通じて恋を追い求めたゲーテでしたが、「野ばら」には、終生忘れられない女性の思い出が潜んでいました。
「野ばら」に秘めた恋
上流家庭で生まれ育ったゲーテは、父に倣い法律の道に進むよう教育を受けましたが、芸術や美術に心を寄せ、自堕落な生活を送っていました。
21歳の頃、大学生のゲーテは牧師館の可憐な少女フリーデリケ・ブリオンと出会います。
「かわいらしい頭のふさふさしたブロンドのおさげに比べると、首すじはあまりにもきゃしゃに見えた。晴れやかな青い眼で、非常にはっきりとあたりを見まわし、美しい円味をおびた小さな鼻は、この世には心配事などあるわけはないといったように、しごくのんびりと大気を嗅ぎまわしていた。」
恋に落ちた二人でしたが、学位を得たゲーテは彼女を置いて去り、後にこう綴っています。
「グレートヒェンは人に奪われ、アネッテは私を棄てた。今度こそはじめて罪は私にあった。 私は、この上もなく美しい心を奥ふかく傷つけたのであった。」
「野ばら」の歌は、少年が愛らしい赤バラに魅せられた美しい場面である一番が有名ですが、二番では、少年は眺めるだけでは満足できず、バラは「君を刺さん」と抵抗しますが、三番「折られてあわれ、清らの色香」と続きます。このバラがフリーデリケの象徴であり、ゲーテは彼女への罪悪感からこの作品を書いたと言われています。
人生の集大成「ファウスト」
ゲーテは詩人であるだけでなく、作家、哲学者、政治家、弁護士、自然科学者等、多面な才能を持つマルチ人間でした。26歳でワイマール公国の若き領主カール・アウグスト公に抜擢された文学青年は、鉱山調査、食料対策、街道整備、財政顧問官等の業務をこなし、最終的には宰相の地位にまで登りつめて国を支えました。
戯曲『ファウスト』は、ゲーテが二十代から82歳になるまで書き続けた作品です。学問を究め抜いて「あげくのはてにわかったのは、要するに何ひとつ知ることはできないってこと」。絶望したファウストの前に現れた悪魔メフィストは、生を満喫させてやると誘惑します。
「時よ、とどまれ、おまえはじつに美しい―もし、そんな言葉がこの口から洩れたら、すぐさま鎖につなぐがいい。よろこんで滅びてゆこう。」
ファウストはメフィストと契約して若返り、時空を超え、欲望のままに突き進みます。
作中では、メフィストが噴火による地殻変動説を語ったり、地中の宝を抵当に証券を発行したり、といった科学や経済の話や、折々に登場するヒロインとの恋が語られ、自身の知識も経験も、恋も詰め込まれた、まさしく人生の集大成ともいうべき作品になっています。
「野ばら」のフリーデリケは『ファウスト』第一部のヒロインであるマルガレーテ(愛称グレートヒェン)にも重ねられています。
このグレートヒェンは、第一部ではファウストに誘惑され、誤って母を殺め、生まれた子どもを池に沈めて処刑されるという悲惨な運命をたどるのですが、最後のクライマックスでは、天使とともに愛の薔薇の炎を振りまき、ファウストの魂を救うという慈愛の象徴として描かれています。
バラになったゲーテ
人名にちなんで名づけられたバラは多いのですが、多くの作品が愛されたゲーテにも捧げられたバラがあります。
ひとつは「ゲーテ」。1911年にドイツで作出された、甘い香りでとげが多く、野ばらのような素朴な可愛らしいバラです。
もうひとつは「ゲーテ・ローズ」。2010年に同じくドイツで作出された、濃い赤系で花弁数の多い、豪華な甘い芳香のバラです。
同じ人物にちなんだバラですが、イメージがずいぶん異なる点が、ゲーテの多面性を表しているようにも感じられます。